事件の概要
麻薬取締官は、Xを緊急逮捕するべく、X宅に赴いたが、不在。
取締官は、Xの長女を立会人のもと家宅捜索を開始、ヘロインを押収。
その後、Xは帰宅し、緊急逮捕された。
Xは起訴され、1審では有罪、2審では無罪となったため、検察官が上告。
判決の概要
破棄差戻。
- 緊急逮捕のため被疑者方に赴き、不在であっても、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索差押がされ、時間的な接着があれば、捜索差押は緊急逮捕する現場でされたものして良い。
- 緊急逮捕の現場での捜索、差押は、被疑事実に関する証拠物件を収集保全するためになされ、目的の範囲内と認められる以上、220条1項後段のいわゆる「被疑者を逮捕する場合において必要があるとき」の要件に適合する。
事件・判決のポイント
2審では、逮捕に伴う無令状捜索差押は、逮捕着手後に行わなければならないのに、本件では逮捕前に行ったとして、ヘロインの証拠能力を否定しています。
最高裁で判決は覆っていますが、2審の考え方も参考になります。
ちなみに、本判例の射程はかなり狭いと考えられています。
捜索開始から20分後に被疑者が帰宅し、逮捕されています。
20分は「時間的な接着」があるということです。
「時間的な接着」がなかった場合は、どんな判決になっていたのでしょうか。
考えさせられます。
関連条文
刑事訴訟法第二百二十条(令状によらない差押え・捜索)
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
② 前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。第百二十三条第三項の規定は、この場合についてこれを準用する。
③ 第一項の処分をするには、令状は、これを必要としない。
④ 第一項第二号及び前項の規定は、検察事務官又は司法警察職員が勾引状又は勾留状を執行する場合にこれを準用する。被疑者に対して発せられた勾引状又は勾留状を執行する場合には、第一項第一号の規定をも準用する。