誤送金問題の概要
山口県阿武町で新型コロナウイルスの影響で困窮する世帯を対象とした給付金を、町内の24歳の男性に全世帯分4630万円を誤って振り込んだとされる問題のことです。
誤送金後、すぐに男性から返金があればここまで報道されることはなかったと思いますが、男性が返還を拒んだり、逮捕されたりとしたことから報道が加熱しました。
誤送金問題について指摘されていること
今回の阿武町誤送金問題については、マスコミによる報道が加熱し、阿武町の対応についても多くの指摘がされています。
阿武町の対応について指摘されているのは、以下の点です。
- 4630万円を誤送金できてしまう役所の体制
- 誤送金後の初動対応の悪さ
- フロッピーディスクで送金をしているITリテラシーの低さ
- 行政運営のレベル(自治体規模について)
4630万円を誤送金できてしまう役所の体制
ネット上では誤送金をした犯人探しが行われており、一部特定の人物が名指しされています。
出納室の職員という話もありますが、公務員として思うのは、出納室にももちろん責任の一端はありますが、データを作成したわけではないので、責任追求し過ぎるのは酷ということです。
一般的に決裁の流れは以下のとおりです。
(福祉担当課) 担当 ↓ 担当係長 ↓ 担当課長 ↓ 総務課長 ↓ (町長秘書) ↓ 町長 ↓ (出納室) 担当 ↓ 出納室長 |
データ作成したのは、おそらく福祉担当課の担当と思われます。
そして、おそらく町の事務決裁規定上、4630万円の支払いとなれば、町長決裁と思われます。
(3000万円以上は首長決裁という規定の自治体も多々あります。)
通常の感覚では、担当課の中でデータ誤りに気付きそうですが、データをフロッピーで作っていたということなので、どこまでこのチェック機能が組織の中で働いていたのか、不明です。
(紙決裁を経て、フロッピーを渡したのだとすれば、ミスに気づくのは厳しいかも)
担当者への信頼度にもよるかもしれませんが、担当課の係長や課長または町長秘書あたりがミスを見つけていても良かったかもしれません。
誤送金後の初動対応の悪さ
これについても「結果論」で批評されているケースが多々あります。
しかしながら、ミスした相手(24歳男性)が悪かったと言わざるをえない部分もあります。
行政と住民との間にあるトラブルでは「コミュニケーション不足」によるものが多いです。
「このお金はあなたのものではない」
ということを説得することができていれば、ここまで大きな問題にはならなかったかもしれません。
フロッピーディスクで送金をしているITリテラシーの低さ
これについても各所で指摘されています。
・・・しかしながら、おそらくフロッピーディスクは「使いたくて使っていたわけではない」と推測されます。
さすがにいくら田舎の役場と言ってもこの時代です。
「フロッピーはやめようよ・・・」という声は多く上がっていたはず。
では、なぜフロッピーが使われていたか?
おそらく、データの受け渡し方法を変えるには、データを作成する「システム改修」が必要だったのだろうと思います。
「システム改修」には何百万円、何千万円がかかってきますので、
「・・・それなら、次システム更新するときに・・・」
となっていたのでないでしょうか。
よくあるのが、自治体の情報システムを契約する時に、大手はかなりぼったくる現実があります。
そして、自治体もカモにされがちです。
確かにリテラシーの低さはあるのですが、デジタル庁ができたり、自治体DXが言われるようになるまで、
行政のデジタル化は国をあげてレベルが低かったのが実際です。
阿武町ばかり批判することはできません。
行政運営のレベル(自治体規模について)
これも今回の件でたくさん言われていました。
「小さい自治体が合併もせずに・・・」
「レベルが低い」
「自主財源も少ない、税金の無駄遣い」
などなどです。
この批判についても公務員として思うところがあるので記載します。
合併しないことを悪くいう風潮について
まず、平成の大合併時に合併をしなかったことを悪く言う風潮がありますが、それは誤った認識だと思います。
平成の大合併は、国が人参をぶら下げて、誘導した面が多分にあります。
しかし、阿武町の場合、それに「ノー」との答えを出しました。
周辺の自治体は合併し、新たに萩市となっています。
阿武町は阿武町としての「自治」を選択したことは、国や多勢に流されずにした英断と捉えることもできます。
自主財源の少なさを悪くいう面もありますが、結果どうなったかと言うと、地方交付税などの国からの支出に頼っているのは、阿武町も萩市も同じ。(阿武町の自主財源25%程度、萩市の自主財源20%程度)
似たような財政運営をしているのであれば、阿武町という個性を残すことができたという意味では、合併をしなくて正解だった部分もあるように思います。
阿武町は総務省の分類で言えば「町村 I-0」に分類され、類似団体には、個性豊かな小さな自治体が並びます。
- 北海道ニセコ町
- 群馬県上野村
- 長野県南牧村
- 徳島県上勝町
- 長崎県小値賀町
- 沖縄県伊是名島村、伊平屋村
などなど全国的にも有名な個性豊かな自治体が並びます。
これらの自治体はいずれも平成の大合併で合併に「ノー」を出し、自治を貫いた地域になります。
とは言え、阿武町は前述の自治体に比べると個性は劣ると思うので、これらの自治体のように「より個性的」になってほしいと思います。
良いか悪いかは別として、今回の誤送金問題で有名になりましたので、これを踏み台に頑張ってほしいところです。
・・・ということで合併しないことを悪くいう風潮については、僕は「ノー」と言いたいです。
ちょっと余談ですが・・・
阿武町の予算概要を見る中で、少し気になったのは、移住定住施策が「バラマキ」っぽく見えた点です。
せっかく自治を貫いた町なので、「お金あげるから移住して」ではなく、サスティナブルな地域運営のために、例えば南牧村のように、移住希望者一人ひとりに寄り添った支援を提供するなど、そういったお金の使い方をしてほしいです。
自主財源の少なさ
自主財源の少なさについては、どの地方に言っても頭を抱えます。
特に人口減少局面では、自主財源の大幅な増額は見込めませんし、努力をしてもある程度天井も決まってきます。
そして、阿武町の予算概要などを見るとわかるのですが、行財政改革などにも言及していますので、そこは一定程度、他の自治体と同様かそれ以上に努力していたと思われます。
カジノや原発などの財政面だけで考えると特効薬ですが、そう言ったものは、反作用も大きいのが常です。
そう言ったものを目指すのではなく、阿武町のHPにあるように「選ばれる町」をつくってほしいです。
最後に
阿武町は少し批判され過ぎているように思います。
これはあまり前向きな議論とは思えません。
阿武町と同様の問題はどこの行政組織にも存在します。
そして、行政ばかり批判するのではなく、そんな行政を成立させているのは、地域住民でもあるのです。
地域を構成している住民であることは棚に上げ、ここぞとばかりに行政批判する世間の風潮に疑問を感じています。
阿武町は本件を通じて、一石を投じたという面では、すでに4630万円以上の効果があったのではないでしょうか。
もうとっくにもとはとっていると思います。
全国で多くの人が阿武町や過疎について考えてくれていますので。
今回集まった多くの声を糧に前向きにまちづくりをしてほしいです。