コラム

児童養護施設に関与しない基礎自治体に不作為責任はないのか?

児童養護施設の現状

日本国内には、約600の児童養護施設があります。そこで約3万人の児童が生活しています。

全国には、約1700の自治体がありますので1/3の割合で地域内に児童養護施設があることになります。

児童養護施設では、虐待されている児童や養護が必要な児童、保護者のいない児童が生活をしています。

施設ではどのように生活をしているかといえば、集団で職員と一緒に生活しているのがほとんどです。

最近では家庭的養育が言われていますので、小規模化やプライバシースペースの確保等が進められていますが、未だに寮生活のような生活をしているところも多いです。

児童養護施設の問題点

児童養護施設では、親代わりの職員が熱心に子どもと苦楽をともにしているかといえば、全部がそうとは言えません。

施設での大きな問題の一つに、「仕事として子どもの生活を支えている」点があげられます。

施設の職員は、あくまで仕事として施設に勤めています。

このことの何が問題なのでしょうか?

施設入所している子どもの多くは、家庭に問題があり、十分な愛情を受けて育っていません。最近では、愛着障害ということも言われるようになりました。

愛着障害とは、養育者と適切な愛着関係が形成できなかったことによる障害のことです。

愛着障害によって、対人関係や社会性に困難がでてくることが考えられています。

この愛着障害を克服するためには、特定の大人に甘えたり、信頼関係を築く必要があります。

こういった課題(愛着障害)を抱える子どもが集団生活を強いられ、自身の課題が解決できるのでしょうか?むしろ、過酷な環境で育った分、普通より信頼できる大人とマンツーマンぐらいで生活していかなければ、克服はできないのではないでしょうか?

愛着に関する問題だけでなく、施設の課題には、子どもの声を代弁する人の不在(最近ではアドボケイトの問題として取り上げられるようにもなりました。)などもあります。

児童養護施設に関与しない理由

このように児童養護施設は未だに多くの課題を抱えています。

にも関わらず、行政はこのことにあまり関心を示しません。

特に基礎自治体の児童養護施設に関する無関心には目に余るものがあります。

児童養護施設の運営費用は、主に国と都道府県から支出されます。

基礎自治体の予算には、全く関係がありません。

だから、児童養護施設は国の施設、都道府県の施設といった認識が基礎自治体の中に広がり、関心を示さないのです。

これは、果たして正しい態度なのでしょうか?

自治体に必要な人権感覚

基礎自治体の役割とは一体何なのでしょうか?

地方自治法第1条の2では、「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うもの」を地方公共団体の役割としています。

これはこれで、こうあるべきというものなのですが、この条文以前に大前提として、憲法を遵守する責任が行政にはあります。

憲法は、「人権を侵害されることなかれ」ということを基本的なこととして要請しています。

では、児童養護施設の問題に立ち返ってみた時に、基礎自治体は役割を果たしていると言えるでしょうか?

地域住民で、地域住民であるにも関わらず、人権が侵害されているような状態で、それを放置している状況は、行政の不作為として責任が生じるのではないでしょうか?

自治体にありがちなのが、声の大きい人ばかりの意見を聞き、施策に反映する傾向があります。

それは、行政としての責任を放棄しているのに等しいことなのです。

本当に必要なことは、声にならない声を拾い上げ、人権が侵害されない地域社会をつくることにあります。

次世代につながる地域づくりに必要なこと

そして、こういった行政運営を続けていては、人権侵害されているといっても過言ではない子ども自身が不幸であるのみならず、ゆくゆくは地域社会全体が不幸になります。

子どもは将来の地域社会の構成員の一人です。たった一人ですが、その一人が社会で接点を持ち、社会を作っていきます。そして、結婚し、子どもを産み、育てていきます。

たった一人であっても大切にできない社会は、社会として成熟しているとは言えません。

次世代につながる地域社会をつくるには、今目の前にいる一人の住民を大切にするほかありません。

社会的に弱い立場の人に共感できる行政でなければ、未来ある地域社会をつくることはできないのではないでしょうか?


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